
ゴミの山に立つ大型発電風車
カールスルーエ市の西、ライン川沿いにあるゴミの山に3基の大型発電用風車が立っている。ドイツ国内電力の5%を風力が占めるようになった今(2007年現在)、風車は決して珍しいものではないが、それでも「ゴミの山の上」というのは他に例がない。
そもそもゴミの山とはいったい何か? これは埋め立て処分場の一種で、ゴミを数十メートルの高さまで積み上げた後、表面をプラスチックシートで覆い、最後に土を被せたものだ。草の種を撒き1~2年もすれば見た目は緑の丘になるが、メタンを含むガスが発生するため公園として利用するわけにもゆかず、本来は使い道がない。標高が高く風が強い点は風力発電に適しているものの、軟弱な地盤とガス爆発の危険からこれまでは風車を建設するなど不可能とされてきた。ところが、地元で農業を営むミュラショーン氏がその常識を打ち破り、技術的・法的な問題をクリアした上で風車を建ててしまった。建設から8年たった現在も、1号機は傾くことなく順調に回り続けている。
出資金は利息付きで返済、その後は8%の利子
建設資金は半分を市民出資、残りを銀行からの借り入れで調達した。出資金は年4%の利息を加えて15年で返済し、その後は年8%の利子を支払う。15年という期間を正確に設定できるのは再生可能エネルギー法(*)という裏付けがあるからだ。20年に渡って売電価格(1kWh当たり約15円)が保証されているため事業として計画を立てることが可能になる。この法律により、これまで「環境保全のために何かしたいが赤字は困る」と躊躇していた市民の参加が促され、さらには有利な投資先として出資する人も増えてきた。
ここで問題となるのが費用負担。電力会社は高い価格で再生可能エネルギー電力を買いとり、それを通常の価格で売るわけだから、誰かがその差額を穴埋めなければならない。これは全国の電力料金に広く薄く上乗せされ、消費者が支払うことになる。今のところ一人当たりの負担増は年間数百円程度と直接家計に響く額にはなっていない。
全体として順調に拡大してきた風力発電も、近年様々な問題が顕在化してきた。まず建設適地が少なくなっている。「金の卵を産むニワトリ」として農家がこぞって風車を建設したため風の通りが悪くなり、発電効率が落ちた地域さえある。また、景観保護の観点からも反対の声が強い。無粋な風車が草原・森・畑地・水辺の織りなす伝統的な景色を台無しにしてしまうという主張だ。推進派にしてみれば「工場の煙突や送電線の鉄塔はあらゆる所に立っているのに、いまさら風車はダメだと言われても・・・」。これは結局のところ主観の問題になるが、原油や天然ガスの高騰が続けば増設以外に選択の余地はないだろう。
ゴミの山が再生可能エネルギーの山に
ミュラショーン氏の夢は壮大だ。そのモットーは「ゴミの山をエネルギーの山に」。ゴミの山から出るガスを収集してコジェネレーションで使用し、電力は売電、温水は近くの工場に送っている(**)。また、丘の南面にはやはり市民出資で大規模な太陽光電池を設置し、将来は地熱発電にも取り組みたいという。氏を環境保全活動に駆り立てたのは1986年4月に起きたチェルノブイリ事故の衝撃だった。丘の頂きには環境教育に利用できるようセミナーハウスを建設し、毎年4月にエネルギーと環境を考えるイベントを催している。 一人のアイデアから始まったプロジェクトが市民の思いを集約し、ビジネスとして具体的な形となる。ドイツは再生可能エネルギー開発を国策としているが、これは決して環境保全の理想だけを追い求めた夢物語ではない。新たな雇用を生む経済効果と、この分野で世界的な主導権を握りたいというしたたかな計算が背景にある。環境がビジネスになることをいち早く認識した先見性、そしてそれを推進する仕組みを整えた実行力が環境大国ドイツの強さだ。
* 再生可能エネルギー
:太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱といった自然エネルギーや循環型エネルギーの総称。広義には、ゴミ埋め立て処分場から収集される、あるいは生ゴミ発酵処理場で生産されるメタンガスを含む。
** これは市エネルギー公社の事業。公社もエネルギーの丘のプロジェクトに参加している。
| 取材協力: Energieberg.de |
◆ “松田雅央 「環境コラム」『GREEN HORIZONS』、Vol.創刊号、2007.11.”を加筆掲載