
ドイツ南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州(以下BW州と表記)レンヒェン(Renchen)にある湖は、採石事業によって生まれた人造湖である。このような湖は採石湖(バッガーゼー1)と呼ばれ、ここで稼働している浮体式太陽光発電(以後FPV2と表記)プラントは、2019年の建設当時はドイツ最大規模であった。環境に負荷を与える産業施設と太陽光発電(以後PV3と表記)というユニークな組み合わせに、他の湖でも採石事業者、PV事業者、自治体が強い関心を示している。今回はドイツの採砂湖FPVの先駆けとなったレンヒェン湖のプロジェクトに着目し、FPVと地域環境について考えてみたい。
人造湖の利用アイデア
ヨーロッパでは、河川沿いや河川が造った平野部で盛んに採石が行われている(写真1)。ドイツであれば、南部のBW州を筆頭に全国に存在する。地下水位が高いことから水が溜まりやすく、採石が始まると自然に湖が出現する。
レンヒェン湖には水路や川は通じていないものの、地下水には周辺の川に向かった水位の傾き(ゆっくりした流れ)があり、水は徐々に入れ替わってゆく。レンヒェン湖の水脈が繋がるのは10キロ西を流れるライン川だ。
採石が続いている湖は、本来、他に使い道がない。危険なため一般の立ち入りは制限され、公園や遊泳施設として開放するわけにはいかない。一方、すでに産業施設が稼働しているため、PV事業を追加することへの各種制約が少なく、まとまった面積を利用しやすい。そこで、湖面にソーラーパネルを浮かべる大規模FPVのアイデアが生まれた。
FPVに最適
この採石場を運営しているOSSOLA(オソラ)社の事業所長グルント・フバート氏(写真2)に施設を案内していただいた。
フバート氏:「ソーラーパネルは計2,304枚で、年間約835MWh4の電力を生み出しています(写真3)。採石場では多量の電力が必要で、まず自家消費します。年間をトータルで考えると2/3は自家消費、残りの1/3は公共の電力ネットワークを通した売電になります。パネルが直接水に触れているわけではありませんが、湖水の冷却効果により発電効率が7~10%アップし、とりわけ夏は効果的です」。
地元のエネルギー供給企業Erdgas Südwestとの共同事業として進められ、設計もそこが担当した。両者のCEOが知り合いだったこともプロジェクト実現のきっかけになったという。
建設時、浮体の位置を固定するためアンカーを打つのが技術的に難しかったが、パネルの据え付け自体はわずか9週間で完了した。同規模のPVパネルを敷くことを考えると、陸地を整地するより簡便で、海などと異なり水位が安定し、大きな波が起きないのも好都合だ。2019年5月の運転開始以来、一部のDC/ACコンバーター(写真4)を交換したが、他に大きな問題は起きていないそうだ。年間約560トンのCO2削減効果をもたらしている。
環境への影響
ヨーロッパでも特にドイツは環境保全に積極的だ。そのため、昔に比べ採石事業の認可を取ることが難しくなってきているそうだが、FPVの開発認可を得るのは難しくなかったのだろうか?
フバート氏:「大きな困難はありませんでした。森や自然を壊して作るわけではありませんし、採石作業に必要な電力を供給するのが第一の目的ですので位置づけは事業の延長になります」。
土地の有効利用と産業活性化にも繋がり、州の環境賞を受賞するなど、地元自治体も支援している。それでも、水質に与える悪影響や環境保全の観点から反対は無かったのだろうか? フバート氏:「強い反対はありませんでした。法律上、湖面を覆える面積は15%までと決まっていますが、適度な日影が藻の繁殖を抑えてくれます。地元の釣りクラブには解放しています。パネルの枠にカモがとまっていますが、鳥のフンは困りものですね。パネルが汚れると発電効率が落ちるし、腐食性があるので少なくとも年に1回は点検を兼ねて掃除しています」。
地域住民の憩いの場
そういえば、水際に小屋や小さな桟橋が幾つか見える。フバート氏と話をしている途中、水着で泳ぎだす人もいたが、これはあまりお勧めできない。おそらく釣りクラブのメンバーで、柵のカギを開けて正規に入ってきたのだろうが、すべては自己責任だ。FPVの構造上、感電の心配はないものの、もし行方不明にでもなれば大騒ぎになる。そのあたりの意識は、管理側も利用者もおおらかなようだ。
当初定められた区域で採石できる砂と石が無くなれば、採石事業は終了する。その後は、事業者の責任において自然復元をしなければならない。多くのバッガーゼーは、自然公園として整備されたり、遊泳用に開放され、特に夏場は地元市民で大変にぎわっている。水位が安定し、激しい水の流れが無いから比較的安全に水遊びが楽しめる。 筆者も他のバッガーゼーで夏の遊泳を楽しんだことがある。夏の水浴シーズンになると水質は落ちるが、細かく水質管理されているわけではない。岸を離れると深さが急に増し水温の下がり方も激しいから安全に対する注意が必要だ。バッガーゼーによってはFKK(自然主義・ヌーディズム文化)専用の区域があったり、スキューバダイビングする人もいるなど、手近な余暇施設といえる。
地下水は公共の財産
当プロジェクトの場合、主な所轄官庁は県の水利局になるそうだ。BW州における地方自治体の階層構造は「州、県、市、群、町村」のようになる。上水源の7割を地下水に頼るドイツにとって、地下水の保護は死活問題だ。地下水は公共の財産とされ、その管理には細心の注意が払われている。
具体的にモニタリングしたり、関連する許認可を出すのは県の部局ということになる。そういえば、軍用跡地の土壌汚染対策を取材した際、所轄官庁として県の環境局に話を聞きに行ったことがある。地下水に関しては、州単位では大きすぎて柔軟性に欠け、逆に市町村単位では細分化されすぎで有効性が無く、県の単位でまとめるのが適している。 もちろん、プロジェクトに関しては県の他部局、州、地元市町村も関わってくるが、PV事業者にとっての総合窓口は県の水利局になる。
莫大なポテンシャル
気になる採算性はどうだろう。建設当時、水上設置タイプは陸上に比べ建設費が10%ほど高くかかった。シミュレーションによれば、建設費をペイする年数は15年ほどと予想されたが、世界的なエネルギー価格高騰の影響もあり、実際は10年程度で投資を回収できそうだという。
ドイツの主要な応用研究機関のひとつ、フラウンホーファー研究所ISEの資料(Fraunhofer-ISE-Leitfaden-Floating-PV)によれば、世界的にみてもFPVはまさにブームを迎えている。全世界で2014年に設置された総出力は10MWだったが、2023年には7.7GW、すなわち800倍近くに成長している。これまでほとんど活用されてこなかった分野であり、気候保護の高いポテンシャルを秘めている。
バッガーゼーはまさにその典型で、ドイツ全国でその潜在能力を推計すると、発電量は15TWHに達する。これは大型火力発電所二つ分に相当し、現在法律で15%に制限されている湖面の利用可能面積25%に緩和すれば、発電量はおよそ2倍に跳ね上がる。
バッガーゼーのFPVプラントは、環境面と経済面の両方から注目を集め、実際に事例が増えている。率直なところ、クリーンなイメージに乏しい採石事業者にとっては、環境対策とカーボン・ニュートラルに取り組む企業の姿勢をPRするのにも効果的だ。パイオニアとして注目されているレンヒェン湖のプロジェクト見学申し込みは今も多い。
| 取材協力: OSSOLA GmbH |
◆ “松田雅央 「コラム:ヨーロッパの街角から」『日経研月報』、Vol.553、2025.12.”を加筆掲載
- Baggersee。採砂湖や採石跡湖とも呼ばれる ↩︎
- FPV (Floating Photovoltaic) ↩︎
- PV (Photovoltaic) ↩︎
- 市民500人が1年間に家庭で消費する電力量に相当 ↩︎