【4月3日(金)の出来事】
制限と補償はセット

経済活動を制限するなら、それに伴う損失をある程度補償すべきです。
法律なのか、社会の要請なのか、あるいは有形・無形の圧力なのか理由はそれぞれですが、コロナが原因で「イベント中止」「宿泊客がすべてキャンセル」、最悪の場合「廃業」というケースが数多く発生しています。
仮にも先進国と呼ばれるのであれば、そういった事業者の窮状に目をつぶることは許されません。「自粛要請はするが損失補填はしない」、つまり「自己判断と自己責任で」などという逃げは以ての外です。
ドイツであれば国民が政府の不作為を許しません。そもそも、言われる前から政治家と官僚はそれに配慮した対策を打ち出します。
ドイツの目指すところを一言で書くならば「コロナによる失業や倒産を許さない」です。あくまで目標であり、すべてを救うことは到底無理ですが、国のコンセプトがはっきりしているので国民はある程度安心できます。
では、そのために何が必要か。
国と州で幾つかの救済策を実施しており、その一つが個人事業者と中小企業を対象とした現金給付です。このプログラムは「Corona Soforthilfe(sofort=緊急の、Hilfe=支援)」と呼ばれ、少なくとも「3ヶ月間破綻を避けられる資金」を念頭に、限度額内で現金を給付します。予算総額は500億ユーロ(≒5.9兆円)です。
今回はこのコロナ緊急支援プログラムについて、Q&A形式で説明します。

コロナ緊急支援プログラム
Q:給付対象は?
A:個人事業者と中小企業です。
個人事業者の範囲は広く「事業者としての登録の有無や業種に関係なく、事業を行い、それを主業としている個人」です。
例えば「自宅で教えているヨガの先生」「音楽家」「フリーのプログラマー」「庭師」などもここに含まれます。特記すべきは「芸術家」も含まれていること。何だかホッとしますね。
なお「会社でも働いていて、そちらが主な収入」「趣味で何かを教え、授業料を得ている」「配偶者も働いていて、家計収入に占める割合が1/3以下」のような場合は対象外です。
中小企業は従業員の数によって3つのカテゴリーに分かれます:「1~5名」「6~10名」「11~50名」。
Q:給付額は?
A:「3ヶ月間、事業の維持に最低必要な資金」として、以下の金額が給付されます。
◆ 個人事業者と従業員5名までの中小企業:最高9,000ユーロ
◆ 6~10名:最高15,000ユーロ
◆ 11~50:最高30,000ユーロ
Q:従業員に対する補償は?
A:別枠です。コロナを原因とする一時帰休には社会保障の特別枠で給与の一部が3ヶ月間補償されます。
「休業や一時帰休は止むを得ないが、雇用者を解雇せず給与を支払ってください。その分は政府が補償します!」という考え方です。ちなみに、補償額は「子供のいない家庭で手取り給与の60%」「子供のいる家庭で67%」です。
Q:中小企業に対する、その他の支援策は?
A:中小企業に対しては、他に緊急融資プログラムも用意されています。「事業者の破綻を防ぐ」という、政府の並々ならぬ意思が伝わってきます。
当然、政府には「破綻した事業者と数十万(あるいは数百万)の失業者の面倒を見るより、今資金を投入する方が得」という計算もあります。
至極もっともな理屈だと思いませんか?
いずれにしろ「政治家の思惑や役所の事情」ではなく、「今、国民に必要な対策」に焦点を当てれば、おのずと出てくる答えではないでしょうか。
Q:給付に所得制限などはありますか?
A:特に無いようです。少なくとも「所有する財産について審査はしない」と商工会議所の公式サイトにあります。
「給付の公平性」や「本当に困っている事業者を重点的に救済すべき」といった観点では問題もありますが、審査の処理速度を上げるため、この部分には目をつぶるようです。
Q:給付金の使い方に制限はありますか?
A:家賃、光熱費、各種支払い、事業の継続に必要な出費などに利用できます。
Q:返済の必要は?
A:補助金であり、返済の必要はありません。
Q:給付を受ける条件は?
A:主なものを挙げると:
◆ 事業の実態があること。
◆ 当州内に事業の本拠があること。
◆ 3月11日(WHOのパンデミック宣言)以降、コロナによる損害を被っていること。
◆ 事業者として納税していること。
⇒ 例えば事業者として登録していない「フリーランス」「語学教師」「芸術家」でも、それを主業として生活し、かつ納税していればOKです。
Q:給付対象は適切に審査されるのですか?
A:納税の事実がポイントだと思います。
個人事業者は、役所に事業者登録をしなくてもいいのですが、納税手続きの際、事業の内容を申告する必要があります。普段ヤミで営業し税金を納めていないと、こういった場合に給付を受けられません。都合よく「にわか事業者」になることはできないはずです。
Q:申請手続きの流れは?
A:州によって異なりますが、私の住むバーデン=ヴュルテンベルク州を例にすると:
⇒ 州経済省のウェブサイトの申請書(PDF)に必要事項を記入
⇒ 印刷し、自筆で署名
⇒ 署名した申請書と、必要書類をPDF化
⇒ 居住地の商工会議所のウェブサイトを開き、規定の方法でPDF書類をオンライン送付
(作業迅速化のため、メールや印刷物の送付は不可)
⇒ その後、「申請書の受理」「審査の終了」など、必要な連絡はメールで届きます
⇒ 振込、入金
Q:申請書に記載する内容は?
A:
◆ 氏名あるいは企業名
◆ 商工会議所の会員か、職能組合に加入しているか
(無い場合は記入の必要なし)
◆ 納税番号(必須)
◆ 運営するウェブサイトのURL
(無い場合は記入の必要なし)
◆ 申請者の連絡先
◆ 業種
◆ 振込先と口座番号
◆ 従業員数
◆ 想定される損害額と(限度額内の)給付希望額
◆ 申請の理由(どのような損害を被っているか説明)
◆ その他、注意事項、宣誓事項
◆ 自筆サイン
これに、事業実態や損害状況を示す書類を併せてPDF化します。同種の申請に比べれば極めて簡単です。
Q:申請受付開始と給付開始はいつですか?
A:3月25日から申請の受付が始まりました。審査と振込手続きに「数日かかる」とのことですが、申請件数が多いため、想定より時間がかかっているようです。それでも「4月7日までに給付金を振り込む」としています。
申請から給付まで10日程度とは! 本当にその通りなら脅威のスピードです。政府は「手続きの簡略化と迅速な給付」を謳っています。
SNSで調べていますが、本日4月3日の時点で、すでに入金があったのかは確認できていません。
Q:政府、州、自治体はどのように関わっているのですか?
A:資金を出すのは「国と州」で、「各州」がそれぞれ申請基準の詳細を定め、申請システムと申請用紙を作成します。
バーデン=ヴュルテンベルク州の場合、申請を受け付け、審査するのは「各地域の商工会議所」です。ただしこの点は州によって異なり、自治体が受付・審査するところもあります。
審査を終えた申請は「州立銀行」に送られ、そこから各口座に給付金が振り込まれます。
Q:申請者の評価は?
A:かなりの大盤振る舞いになりそうで、大きな期待を持って審査と振り込みを待っている状況です。期待が膨らんでいるだけに、もし「多数の申請が却下」されたり、「給付額が申請額より大幅に少ない」などとなったら混乱は必至です。
Q:ここまでの数日間で、何か問題はありましたか?
A:大規模緊急プログラムですので、申請受付システムのダウンしたところがあります(ハンブルク州、すぐに復旧)。申請件数は最初の1、2日で全国30万件以上。最終的には200万件を超えそうです。
また、申請が簡単で、しかもかなりのスピードで審査されるため、不正な申請を完全に防ぐことはできないようです。当然、不正な申請と受給には罰則があります。「不正を完全に防ぐことを目指すより、迅速な給付こそ重要」との政治判断です。
他の救済制度については、また改めてご紹介します。
ドイツの感染者数(前日比)/ 死亡者数(前日比)
◆ バーデン=ヴュルテンベルク州
:16,059 (+1,397)/ 285(+44)
◆ バイエルン州
:20,237 (+1,741)/ 307(+39)
◆ ノルトライン=ヴェストファーレン州
:16,606 (+1,179)/ 178(+17)
◆ ドイツ全国
:79,696 (+6,174)/ 1,017(+145)
- 【ロベルト・コッホ研究所発表】の公式データ
(2020年4月3日(金)00:00現在、08:10発表) - 感染者数の増加スピードは依然速い。
- 死亡者数の増加スピードは高止まり。
- 死亡率(感染者数に占める死亡者数の割合)は1.2%。
- 人口100万人に占める死者数は 10.4人。
世界の感染者数 / 回復者数 / 死亡者数
◆ ドイツ全国
:89,838 / 24,825 / 1,230

- 【 Berliner Morgenpost紙の速報値】
(2020年4月3日(金)19:00現在) - データ元:Johns Hopkins University CSSE, WHO, CDC (USA), ECDC (Europa), NHC, DXY (China), Robert-Koch-Institut, Kreis- und Landesgesundheitsämter
- 上記リンクをクリックすると最新の「コロナウイルスモニター」が表示されます。
- 感覚的な操作でドイツ、世界各国のデータを調べることができます。
【注意】
- 感染者数に関するデータは、統計を取る機関によってバラツキがあります。感染拡大スピードが速く、値が刻々と変化するからです。またデータの集計方法によっても違いが生じます。
- ① ロベルト・コッホ研究所は公的機関で、発表されるデータが国の公式データとして扱われます。
- ② Berliner Morgenpost 紙は、世界のデータを集め「コロナウイルスモニター」として独自の速報値を公表しています。
- データ集計の性格上、この2者の値が同じになるとは限りません。