【2 Sep. 2022】

記録的な猛暑と干ばつ
この夏、欧州は記録的な猛暑と干ばつに襲われ、欧州委員会(EU)は「この500年で最悪の状況」と懸念を表明した。詳細な記録が残っているわけではないから、信ぴょう性ははっきりしないが、各地で大きな被害が出たことは間違いない。ドイツでも「観測史上最悪の猛暑(気象庁の発表)」を記録し、干ばつの悪影響も甚大だ。私が住むドイツ南西部をみても、その影響がはっきり分かる。
干ばつは、社会・経済・生活に直接悪影響を与える。そのひとつが川の水位低下に伴う経済損失だ。
ライン川など大きな河川は物流の動脈となっており、4千トン級の河川用貨物船が頻繁に行き交っている(トップの写真)。積み荷は、石炭、砂利、石油製品、コンテナ、金属製品、鉄くずなど多岐にわたり、経済性や輸送システムの関係から、トラック輸送や列車輸送へ簡単に切り替えるわけにはいかない。
水位が下がると、何が起きる?
まず、貨物船は座礁を避けるため速度を落とすことになる。状況がさらに悪化すると積み荷を減らし、水位の低下が限界を超えれば運行を止めなければならない。結果として輸送費が上昇し、物価上昇を引き起こす。ドイツ南東部のバイエルン州ではガソリン・軽油などの燃料をオランダからの河川輸送に頼っており、小売価格が20セント/リットルも上昇した。
さらに、発電所にも影響がでる。ライン川沿いに建つEnBEのカールスルーエ火力発電所(バーデン=ヴュルテンベルク州)は石炭を燃料としているが、輸送を河川用タンカーに頼っているため、輸送が滞れば発電が困難になる。
また、発電所は川の水を冷却に使用しており、この点も問題だ。自然保護の観点から発電所の取水には規制がかかっており、水位が下がったり水温が上昇すれば取水を止めなければならない。原子力発電所の状況はさらに深刻で、ライン川沿いに建つ(フランスの)原発はすでに操業休止を強いられている。
通常、ライン川の水量はかなり豊かだが、発電所が河川に与える影響もまた大きい。ここ数十年でライン川の水温は約2℃上昇しており、そのうち1℃は川沿いに建つ多数の発電所の廃熱が原因とされる。

カラカラ天気で火事が多発
私が住む地域では、7月下旬から8月下旬にかけ、約1か月間まとまった降雨が無く、畑の火事が頻発した。木の葉も乾燥している状態で、一旦火が付くと手が付けられない。
トウモロコシの生育にも悪影響がでており、収穫時期を前に、成長しきらないまま立ち枯れしている畑が珍しくない。今年の国内収穫量は、例年に比べ約20%減るとみられている。
干ばつになると日本では水道水供給に支障が出るが、ドイツではあまり問題にならない。水源の80%近くを地下水に頼っているため、供給が安定しているのだ。数年に渡って降水量が激減するようなことがあれば影響は顕在化するが、短期の気候変化、例えばひと夏の渇水で地下水位が大きく変動することはない。
1ユーロ(100セント)=139.4円