
「連邦議会議長! お集まりの皆さん! ドイツ市民、そして外国籍市民の皆さん!」 2012年3月23日、第11代ドイツ連邦ヨアヒム・ガウク大統領の就任演説はこのように始まった。
ドイツに住む外国人のひとりとして、私の印象に残ったのがこの外国籍市民という言葉。市民の19%が外国人、または両親のどちらかが外国人というドイツにおいて、民族の融和は重要課題である。
こういったメッセージを最初から散りばめるあたり、市民運動から生まれたガウク大統領の特色がよく出ていると思う。旧東ドイツ出身の大統領は民主化運動を指揮し、1990年のドイツ再統一で中心的役割を果たした。そんな彼の発する市民という言葉は重い。
しかし東西ドイツの間には未だ格差が存在し、人々の願いとは裏腹に心の壁も残るようだ。「(私の大統領就任により)旧東ドイツ市民が本当の意味でヨーロッパ市民になることができました」という言葉は彼の喜びと希望を象徴している。…
◆ 松田雅央「ヨーロッパの街角から」『日経研月報』、Vol.407、2012.05.